「文通講座」開催レポート
文責:風間勇助(NPO法人マザーハウス 理事)
1月25日(土)に岐部ホールにて「文通講座」を行いました。マザーハウスが行っている「ラブレター・プロジェクト(受刑者との文通プロジェクト)」について、すでに文通を行っている方や、これから始めてみたいと思っている方など、20名以上の方に集まってもらい、「受刑者との文通」についての悩みや楽しさなどをグループミーティングも交えて共有できました。
以下、当日の流れに沿って報告していきたいと思います。当日は以下の流れで行われました。
①「受刑者との文通」を取り上げた番組紹介
②文通事業の担当スタッフから概要説明
③元受刑者スタッフから「刑務所の中での“手紙”という存在」について
④グループミーティング、質疑応答
①「受刑者との文通」を取り上げた番組紹介
2019年9月13日、NHK「人生レシピ「第二の人生 ボランティアで豊かに」」
マザーハウス代表の五十嵐さんからの挨拶の後、まずは上記番組「人生レシピ!」を上映し、出演された芹沢さん(仮名)から、番組の舞台裏について、こんなお話を伺いました。
文通ボランティア・芹沢さん:
改めて自分で番組を見てみると、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。慎重に言葉を選びながら話しているなぁ〜と感じました。というのも、当初取材が入った時に、番組のディレクターさんからまず最初に言われたのが「なぜ、芹沢さんは加害者支援をするんですか?」っていう質問だったんですね。これは非常に驚きました。
自分は今まで、受刑者というのは、昔犯した罪はあったとしても、今は弱い立場にある人たち、そんな弱い人たちの支えになれたらと思って始めたことだったので、いきなり「加害者支援とは?」という問題を突きつけられて、「そうか、そういうふうに加害者支援ということに疑問をもって見る人もいるんだ」と、その時初めて気づきました。そう改めて思い直した時に、見ていただいた番組の通り、慎重に言葉を選ばざるを得なかったんだなぁと思います。
ですが、この番組の反響もあって、文通ボランティアをしてみたいと思われた方からの連絡がたくさんきて、さらに今日もこうした場ができ、集まっていただけたことが、またすごく嬉しいことでもあります。番組を通して伝えたかったことは伝えられていたのかなと。
今日はみなさんと、より深くいろんなお話ができればと思います。
②文通担当スタッフからの概要説明
次に、マザーハウスの文通プロジェクト「マザーハウス・ラブレター・プロジェクト(MLP)」を担当する当法人スタッフから、文通を始めるにあたっての注意事項や申し込む前に検討してほしいことなどの説明がありました。
※詳しくは、こちらのMLPについてのページをご参照ください。
文通担当スタッフ山岡:
「ラブレター・プロジェクト」というのは、「真心の交流」という意味で代表の五十嵐が考えたものですが、「ラブレター」という意味は男女の出会いを意味するものではありません。勘違いされる方が多いのですが(笑)。
まず、MLPの仕組みについて説明します。文通ボランティアさんは、本名でもペンネームでも文通を行うことができ、住所はマザーハウスの住所を必ず用いることにしており、個人名や個人の住所がわからないように配慮されています。なので、受刑者から届く手紙は、一度マザーハウスの事務所に届き、当法人で手紙の中身を確認することはせず、そのまま担当いただいている文通ボランティアのもとへ転送します。
文通ボランティアさんは、差出人の住所にマザーハウスの住所を書いて、直接相手に郵送します。なので、投函した場所の消印がつくため、そのことを気にされてやめられた方もいます。もし、そうしたことを気にされる場合には、その点をまず検討事項にしてください。
少しでも不安がある方は、まず最初に「バースデーカード」を書いてみる、といった始め方もできます。
次に、いくつかのトラブル例について共有させてください。これは、すべてMLPの同意書(PDF)に書かれていることですが、同意書に書いてあることというのは、これまでのトラブル事例の経験から作られたものなので、文通を始められる時は、手元に置いて確認しながら行っていただけると助かります。
1つめは、お金や切手、モノのやりとり、あるいは頼まれごとへの対応(書籍の値段の検索や他の情報検索など)をしないでくださいというお願いです。ただし、長く文通をされて信頼関係を築いた中で、プレゼントとして書籍を送りたいということについては、認めています。これは、相手から頼まれた書籍ではなく、こちら(ボランティア側)から相手に読んでほしいと思った書籍に限ります。どんな理由でも、お金と切手は絶対に送らないでください。
もし、何か頼まれごとをされても「事務局に(あるいは同意書で)禁止されていますので」と、断ってください。
2つめは、ペンネームについてです。本名でやりとりもできますし、ペンネームを使うこともできるのですが、ペンネームには普通っぽい名前を使ってください。ラジオの投稿はがきのような「みかんさん」とかそういうものではなく、何でもいいんですけど「山田尚子さん」とか、番組にもあったような「芹沢さん」とか、そんな感じです。
そして、それが本名ではないことを、わざわざ相手に伝えなくても大丈夫です。本名ではないことに後ろめたさを感じられる方もいらっしゃいますが、これは、互いを守るためでもありますし、やりとりする上での呼び名でしかないので、わざわざ「本名ではないんだ」ということを伝えることによって、変に関係がくずれたりといったケースもまれに見られます。
最後に、手紙の中身について、必要以上にいろんな人に話さないでください。それは、たとえご家族やご友人であってもです。ネット社会でもありますし、どこからどのような情報が漏れるかわからないのと、例えば、ボランティアから受刑者に送る手紙の中で「以前、手紙の中であった話について私の家族にも聞いてみたところ…」といったことに対して、「なんで話すんだ」といったことを思われる受刑者の方もいます。
何か返答に困ることがあれば、マザーハウスまで連絡をください。
他にもいろいろありますが、トラブルの種になりやすいポイントとしては、この3つかと思います。あとは、同意書をお読みいただくか、個別にご相談ください。
代表・五十嵐:
モノのやりとりをしないでくださいというお願いは、相手の要望や要求に答えることが「愛」ではないからです。受刑者も人に大事にされる経験とか、人間関係の築き方といった経験が少ない分、自分の要求を一方的に伝えがちなコミュニケーションをとってしまうことがあります。しかし、それに答えていくことは、相手(受刑者)にも良いことにはなりません。要求はエスカレートしていくし、それに答えられなくなった時に勝手に「裏切られた」と思ったりします。なので、最初から要求に答えないことです。
互いに気遣い合うという、双方向の思いやりこそ「愛」です。一方的に支援を要求する関係ではなく、ぜひ双方向の心の交流をお願いいたします。
そして、変に相手を更生させようとか、回復させようといったことを考えないでください。相手が自分の過去や罪と向き合っていく中で、共感できるところには共感を示し、共感できないところには率直に疑問を投げかけたりしてかまいません。互いに正直であることから、まずは、人間関係・信頼関係を築くところから始めていただければと思います。
③元受刑者スタッフから「刑務所の中での“手紙”という存在」について
続いて、マザーハウスのスタッフであり、服役経験をもつ元受刑者の当事者たちから、「刑務所の中で手紙がどのような存在なのか」について話してもらいました。
スタッフAさん:
自分は、つかまる前に嫌なことがあり、過去を一切断ち切るということを決めた時に、服役中は昔の仲間など誰とも連絡をとらないと決めたわけですが、そうするとやはり孤独になります。そんな時、マザーハウスを知って、文通を通じて社会とのつながりをもつことができました。
やりとりしていた内容は、本当に他愛もないことでした。文通相手の日々の日常だったり、教会のことだったり。相手の人にとっては、なんてことのない日常のことでも、刑務所にいる自分にとっては得られないものだったり情報だったりもして新鮮なんです。
あと、自分が知りたかったのは、読んでいる聖書やキリストのことで、自分がした質問に対して、文通相手の方がわざわざ神父さんか牧師さんに聞いて、調べた書籍をコピーして送ってくれたことがありました。すごくうれしかったですし、ありがたかったです。いろんな御言葉に救われました。
語れる相手、話せる相手、自分の存在を伝えられる相手がいたっていうことは、今の自分にも欠かせないものだったと感じます。返事がくる、それって自分が生きていること・存在していることを認めてくれているんだ、そう感じました。自分にとっての手紙はそんな存在です。
スタッフBさん:
自分は、刑務所に2回いってます。最初はマザーハウスではなく、別の支援団体を通して文通をさせてもらっていました。
手紙をもらうというのは、刑務所の中では当たり前ではないんです。初犯の刑務所は別ですけど、累犯の刑務所になると家族・友達を持たない人もいるので、手紙が届くこと自体すごくありがたい。手紙がきてるのはだいたい組織の人?だったりもします(笑)。もう差し入れの量がすごいです(笑)。
自分勝手な思いかもしれないですけど、手紙が相手から突然来なくなると少しイライラしてしまいます。不安になります。外の事情がわからない分、「なんで早く返事くれないんだよ!」と、怒りが先にきてしまうんです。相手にも事情はいろいろあるだろうし、自分が身勝手なのは認めます。でも、そう感じる受刑者は多いと思います。
「今忙しいんだよ、ちょっと待ってろ!」の一言でもいいんです(笑)。突然来なくなるっていうことのほうが不安です。
「何を書いていいかわからない」という人も多いんですけど、私としては、他愛もない日常のこと、社会のことでよくて、あるいは「最近、中はどうなの?」ぐらいでいいです。何も深いことを書いてほしいということはないです。もちろん、相手が何か深い悩みを相談してきた時は別ですけど。
手紙だからってかしこまったり、身構えたりしなくてよくて、気楽なものでいいと思うんです。季節が感じられる手紙とかもいいですよね。この間、こんなお祭りや行事があったとか、寒くなってきたとか。
あとは刑務所の中って色がないので、旅行先で買ったであろう絵葉書なんかもすごく嬉しいですね。中にいる人も、いろいろあるので書けない時期っていうのもあると思います。そんな時は、じっと待っていただければと思います。なんか、勝手ですみません(笑)。
質疑応答
会場から質問:
こういうことは書いてきてほしくないっていう内容はありますか?
当事者Bさん:
人によっては、過去のこと、事件のことを聞かれたくないって人もいますけど、自分はあまりそういう聞かれたくないことはなくて。「こういうこと聞いちゃダメ?」っていう聞き方ならいいんじゃないでしょうか。
芹沢さん:
私も文通を始めた時、同じ質問を五十嵐さんにしたことあります。
代表・五十嵐:
「こういう事聞いちゃダメ?」という聞き方もそうですし、正直にどんどん聞いていいと思います。ただ、自分は社会に出た時に「あなた何したの?」と、何回も過去のことを細かく聞かれた経験があります。役所でもどこでも。「あなた何したの?」というのは、何か相手を過去に閉じ込めるような、相手を殺す言葉になることもあります。なので、受刑者が、過去や自分の罪と向き合うことは必要なのですが、そうしたことなどは、相手から話し始めることを待ってほしいと、個人的には思います。
会場から質問:
出所後も文通を続けることはできるのですか?
代表・五十嵐:
出所後についても、マザーハウスの住所を介して文通を続けることはできますが、必ず互いの同意を確認していますので、個別にご相談ください。おそらく、出所後のほうが困ること・悩むことは増えると思いますので、やりとりする相手がいることは重要ではあります。
会場から質問:
受刑者からの手紙の中に、マザーハウスの悪口がたくさん書かれていて、自分もマザーハウスさんのことはよくわからないので、スルーしてお返事を書いたのですが、へそを曲げられてしまったのか、途絶えてしまいました。どう答えたらよかったのでしょうか。
代表・五十嵐:
支援団体として活動していると、支援団体なんだから支援して当たり前だろと、相手の要望が膨らんでしまう受刑者の方もいます。その中で、不満やストレスが膨らんで、あること・ないこと色々なことを悪口にして言われてしまうこともあります。マザーハウスの活動について疑問に思われることがあれば、いつでもお尋ねください。その受刑者の方も、いつか気づく事があると思いますし、返事の内容に正解というのも無いと思います。
④グループミーティング、質疑応答
休憩を挟んで、3〜4人のグループでの対話を行い、最後にグループで話したことの共有や、質疑応答を行いました。本記事の執筆者が覚えている範囲で、以下に述べていきたいと思います。
質問:
文通ボランティアをしている者です。相手が懲罰房に入った経験などを伺った時に、閉所恐怖症が少し出てしまい、今、少し返事を保留してしまっています。先ほど、早く返事がほしいというお話もありましたが、どう返そうかなぁと考えているところです。
芹沢さん:
長く文通のやりとりをしていると、平板になっていったり、話すこと(ネタ)に困ってしまったり、相手から返事がこなくなってしまったりということがよくあります。そんな時、例えば夏の暑い時期に、「ナイアガラの滝」の絵葉書を送ったことがあります。もう返事が来なくなってしまった人も含めて、みんなに送りました。すると、すごく喜ばれて、「見ているだけで涼しくなる」と、返事がきました。
以後、旅先で買った絵葉書なんかを送ったりもして、そんなふうに、ちょっとした工夫で次の会話の新しい糸口になったりすることがありました。
質問:
文通相手の受刑者が、A刑務所からB刑務所へと移送になるということがあった時に、前の刑務所でできていたことが、次の刑務所ではできなくなるという、理不尽なことがありました。法務省に問い合わせようかなとも思いましたけど、いったん心を落ち着けて、今日ここにきて五十嵐さんに聞いてみようと思いました。
代表・五十嵐:
どんどん刑務所でも法務省でも問い合わせてください。みなさんが刑務所に関心をもってくれることが、刑務所を変えていく力になります。私も、何度か外部交通を禁じるような刑務所について、法務省に問い合わせたり、裁判にまでなったこともあります(その裁判では勝ち、受刑者の外部交通の権利は守られました。詳しくは、拙著に記しています)。
私なんかが言うよりも、皆さんからの声が、現状の制度のおかしな部分だったり、そうしたことに疑問を投げかけていくきっかけになります。当法人理事の風間も、刑務所にどんどん問い合わせて視察に行ったりということをしています。
風間:
自分は、研究上の調査も兼ねて、刑務所長宛に調査依頼を投げて、実際に千葉刑務所、川越少年刑務所、府中刑務所などを訪れています。大学の名前を使っているから、依頼が通っているということもありますが、私が出会った刑務官の中には、「受刑者の人権ばかり言われるけれど、僕たちのことも知ってほしい」と、刑務官でさえ関心をもってもらえることを嬉しいと感じる人達がいます。そんなふうに、刑務所に関心を払うことが、社会全体でもっと当たり前になっていくといいですよね。
質問:
相手とのやり取りの中で、どこまで自己開示したらいいでしょうか。あまり自分のことを相手の受刑者に伝えることに不安がある場合、正体不明の相手と文通することについて受刑者の方はどう思われるでしょうか。
代表・五十嵐:
自分は、相手の個人情報を知りたいということはなかった。自分が知りたいのはキリストのことや聖書、回復のことだったから。重要なのは、相手の個人情報じゃなく、受刑者本人がどう自分と向き合っていくか、そのことの支えとまで言うと負担に感じてしまうかもしれませんが、文通ボランティアさんが話し相手となってくれることです。
芹沢さん:
自分も最初は本名で文通をしていました。しかし、あることがきっかけでペンネームを使うようにしました。それは、自分が文通していた相手が、同囚に私のことを話したところ、「芹沢さんという人と文通がしたい」と指名されて担当したことがあったんです。その方と文通を始めてみると、「下の名前で呼び合いたい」とか、どこか疑似恋愛体験みたいなものを求めてくるような、そんなお返事がしばらく続いたので(私も断るところは断ったりなどして)、五十嵐さんとも相談し、その方との文通はストップしました。
これは、相手が悪いということではなく、ペンネームを使うことは自分を守ることでもあるんですけど、相手を誤った道へと向かわせないためにも必要で、相手を守るためにも必要な関係性だと思いました。以降、私はペンネームを使うようにしました。
番組に出たときも、また違う名前を使って出たわけですが、それを刑務所の中で見た私の文通相手の受刑者も、私がペンネームを使っていることに何も言ってきませんでした。ペンネームかどうかなんて、大事なのはそこじゃないんですね。
質問:
今のお話を受けて、私たちのグループの中には、純粋に文通を楽しんでいるという方もいました。相手が受刑者であることも忘れてしまうくらい、日常の他愛もないやりとりを手紙を介して行う中に楽しさがあるという。そうした文通のあり方も良いのでしょうか?
代表・五十嵐:
文通相手の受刑者が何を求めるか次第ですので、そうした友達感覚の文通もありだとは思います。ただし、先程のスタッフからの説明や芹沢さんのお話にあったとおり、「ルールを守って、相手との関係において一定の線をひいておく」という関係性の中で、です。
芹沢さん:
いのちの電話のボランティアをしている時にも、「どこどこで会いましょう」とか、そうしたことはしないというルールがありました。私も番組の中で、受刑者という文通相手の存在について「遠いところにいる時々心配になる友達」という言い方はしましたが、それでも私はあくまで「文通ボランティア」なんだと、ラブレター・プロジェクトの一員としてやっているんだ、という感覚が重要な気がします。
おわりに
以上、参加くださった皆さんからの感想を最後に共有して「文通講座」は終えました。ご参加くださったみなさま、ありがとうございました。また、やりたいですね。いろいろなことを共有したいです。コメントなどお寄せください。
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