被告人の母の戸惑い、更生と家族

今回の裁判は、共謀による転売・換金目的の窃盗事件である。

私にとっては初めての共同被告人(被告人2名の裁判)形式だった。
共犯などの複数人による事件の場合、同時に被告人を複数人立てて共同で審議を行うものだ。

とはいっても、被告人それぞれに弁護士がつき、
それぞれに対して、裁判を行う。

マザーハウスが関わりを持って情状証人に立つことになったのは、
一方の被告人のAさんだけである。

まだ若く、どちらかというと気弱そうな、
犯罪にいたってしまうようには見えないまじめそうな男性だ。

Aさんは、今回の窃盗事件において実は自首している(初犯でもある)。

しかし、最初に自首をしに行った警察では管轄が違うからということで取り合ってもらえず、
その後日、言われた所管の警察に赴くと、今度は自首調書をとってもらえず、
せっかく自首をしても、そんな扱いなのかなぁと、少し疑問になった。

さらに、私にとって初めてだったことがあり、
情状証人にAさんの母親が立ったことである。
(いつもは五十嵐さんだけなので)

これまでのAさんと母親との間のコミュニケーションに支障はなく、
普段から連絡を取ったり会ったりしていたそうだ。

弁護士がAさんの母親に対しこんな質問をした。

「Aさんから、事件についての連絡を最初に受けた時、どのように思いましたか?」

Aさんのお母さんはこんなふうに答えた。
「まず、一報を聞いた時は最初驚きました。まさか自分の息子が…、と。そして、『これからどうしたらいいのか』という今後の不安がわきました。さらに、『なんてことをしてしまったんだ!』という息子への怒りもこみあげました。」

マザーハウスのマリアカフェには、日々いろんな方がいらっしゃるが、
こうした当事者の親の気持ちを率直に聞くのは初めてであった。

どこにでもいる普通の母・息子で、
私も何かしてしまった時には、裁判で母があんなふうに語るのだろうかと少し想像した。

一言では言い表せない、複雑な心情が伝わってきた。

Aさんのお母さんは、今後に対する不安の思いから、
加害者家族の支援を行っている NPO法人World Open Heart さんに相談されて、
マザーハウスの紹介を受けたようだ。

まだ判決は出ていないものの、執行猶予の可能性が高く、
Aさんはいずれマザーハウスに来る予定だ。

母親といったご家族がいらっしゃるにもかかわらず、
事情はさまざまあり、マザーハウスで更生を目指す。

上記のような家族ならではの「戸惑い」もあるからこそ、
必ずしも家に帰ること更生の必須要素ではないかもしれない。

つまり、家族がいれば安心というわけではない。
(もちろん多くの場合は重要な心の土台である)

家族はいつでも幸せの象徴のように語られる事が多いが、
他方で、家族の絆が反対に関係をこじらせ、負のスパイラルへ導いてしまうケースもある。

これは、加害者家族の問題に限らず、
昨今の老老介護の現実において、自分の老いた親に対し暴力的な感情を抱いてしまったり、あるいは、自分の子をなかなか愛することができない親がそのことに悩むケースなど、いろいろだ。

更生にとって家族(特に親)との関係は重要である。
親と自分との関係に向き合うことを通して、
適度な距離をとれるようになることが必要と考えている。

いろんな事情があって、家にいることができない、
職場はもちろんそんなプライベートな話ができるわけではない、
そんなどこにも居場所を持てない人は今、少ないないかもしれない。

特に、服役経験などを持てばなおのこと、前科を隠して生きなければならないストレス、自分の悩みを打ちあける場がない人は多いのではないか。

そんな人にとってマザーハウスは、
互いに気にかけてあげることができる新しい家族・居場所でありたい。

(ペンネーム:dada)

※裁判傍聴記について
裁判傍聴記では、マザーハウスに関わる文系大学生のボランティアが、主に代表の五十嵐への情状証人の依頼があった裁判について、傍聴した感想を投稿しています。

※情状証人とは…
刑事裁判で被告人の量刑を定めるにあたって酌むべき事情を述べるために公判廷に出廷する証人を言います。 刑事裁判では弁護側と検察側のどちら側にも情状証人が付くことがあります。(刑事事件弁護士ナビより)

※自首とは…
自首とは、犯罪が起きた事や犯人が分かっていない段階で、犯人自らが捜査機関(おもに警察官)に犯罪事実を申告し、処分を求めることを言います。刑法42条には「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。」とあり、量刑への影響もある。(刑事事件弁護士ナビより)

※執行猶予とは…
執行猶予とは、判決で刑を言い渡すにあたり、犯人の犯情を考慮して、一定の期間(執行猶予期間)法令の定めるところにより刑事事件を起こさず無事に経過したときは刑罰権を消滅させる制度。(Wikipediaより)