回復に必要なのは本人の意志と周囲の環境

今回傍聴した裁判は、40代男性Aさんの薬物所持と使用の再犯事件である。

裁判が始まる前、少し時間があったので、弁護士さんに情状証人ってどんな存在なのかを聞いてみた。 弁護士さんいわく、

「ケースバイケースで、その人の状況や更生にとって最適であると判断した場合に情状証人が有効である。 例えば、とある女性が何か罪を犯したとして、その旦那さんが情状証人に立つようなケースがあったとする。旦那さんが『私がしっかりと監督します』と証言して、家族が面倒を見るならと執行猶予がつくかもしれない。 だけど、その旦那さんが暴力をふるうような旦那さんだったらどうか。たとえそれで執行猶予になったとしても最適な情状証人とはいえない。その時は、違う方法で弁護をしなければならない。」

このようなことをおっしゃっていた。

Aさんはもともと暴力団組織にも所属していたようだが、前回の服役中に脱退している。そして、出所後、今度こそやり直すために、新たな場所に生活の土台を変えてやり直そうとしていた。 仕事を探す際には、隠し事をせず、前科があることもオープンにしながら採用面接などに臨んでいたそうだ。

しかし、社会はきびしく、どこからも首を縦には振ってもらえなかった。 結果として、自らが悪さをしていた場所に戻って仲間に連絡をとり、再犯にいたってしまったようだ。二度としたくないと思っていた薬物に、また手を出してしまい、追い詰められ、最後には自首している。

検察側は薬物の入手経路を問い詰める。

検察官「どこから薬物を入手したんですか?」
Aさん「怖いので言えません。」
検察官「言うことによってその人が捕まることが社会のためになると思いませんか?」
Aさん「じゃあ私のことを守ってくれるんですか?できないですよね?言いたくありません。」
裁判官「検察官、くどいですよ。質問を変えてください。」

少し緊張感が走った。裁判官が止めるということは、ここは取り調べの場ではないことをしっかり守っているのだろうと感じた。

五十嵐さんが情状証人に立ち、Aさんを引き受けた時の支援について説明した。 そして、弁護士が最後に述べる。

「更生には、本人が変わるという強い意志と、それを支える周囲の環境、この2つが欠かせません。 前回の服役中、Aさんは変わるため暴力団を脱退しました。出所後も住まいを新たに変え、元いた場所を離れてやり直そうとしました。これは、本人の変わろうとする意志の表れではないでしょうか。 しかし、周囲の環境が不足していた。仕事がなかなか得られない、他に頼るつながりもなく、元の仲間を頼ってしまった。それが今回のAさんの一番の誤ちです。 本人の変わろうとする意志は今も変わっていません。次は、マザーハウスがその意志を支える環境をサポートします。今度こそAさんは更生できると考えます。」

なるほど、これが最適な情状証人ということなのかと、深く納得した。

本人の意志と、周囲の環境。この2つは確かに欠かせない。 Aさんのように、本人の意志があっても周囲にその環境がない場合もだめで、 マザーハウスがどれだけ尽くしてサポートしても、本人の意志がなければ、やはり回復はできない。

刑務所のネガティブな環境がAさんの大事な意志をくじかないことを祈りたい。

(ペンネーム:dada)

※裁判傍聴記について
裁判傍聴記では、マザーハウスに関わる文系大学生のボランティアが、主に代表の五十嵐への情状証人の依頼があった裁判について、傍聴した感想を投稿しています。

※情状証人とは…
刑事裁判で被告人の量刑を定めるにあたって酌むべき事情を述べるために公判廷に出廷する証人を言います。 刑事裁判では弁護側と検察側のどちら側にも情状証人が付くことがあります。(刑事事件弁護士ナビより)